手塩にかけて育てた会社の未来を投資ファンドに託す

<譲渡企業>

株式会社おおつか
本社 福島県郡山市
事業内容 大型ギフトショップ「ギフトプラザ」の運営(東北・北関東にて直営22店舗)
売上高 約45億円
経営課題 事業承継

<譲受企業>

日本プライベートエクイティ株式会社 略称:JPE
事業内容 中堅・中小企業向け投資ファンドの管理・運営
株主 日本政策投資銀行、日本アジア投資 等
投資実績 累計27社(創業来17年間)

<プロフィール> 株式会社おおつか 創業者 大塚節夫様

小学校助教諭、カーディーラーの営業などを経て1977年独立し、翌78年に「ギフトショップおおつか」を創業。86年法人に改組し株式会社おおつか代表取締役に就任する。以来32年にわたって同社の経営に携わり、総合ギフト専門店「ギフトプラザ」を日本最大級の店舗型ギフトチェーンに育てた。2018年9月、事業承継を目的に投資ファンドを運営する日本プライベートエクイティに株式を譲渡。

——創業の経緯——

時代の変化を捉え、郊外に店舗型ギフトショップを展開

大塚様
小学校の助教諭やカーディーラーの営業を経て、26歳の時に脱サラしました。成功も失敗もすべて自分に返ってくるような「自業自得」な環境に身を置かないと、正直に生きられないと思ったからです。

馬場
ギフト業に参入されたのは1978年のことでしたね。

大塚様
はい。それ以前は損害保険代理店をやったり、山菜をドライブインなどの観光施設に卸したりする仕事をやっていました。ある時カーディーラー時代の同僚が、退職後にギフトショップを始めたというので、話を聞いてみたら「そこそこ儲かる」と言うんです。この人は私よりも営業成績が良くなかった人でしたから、自分なら彼の10倍は稼げるだろうと(笑)。それでギフトを扱うようになりました。

馬場
当時は景気も右肩上がりでした。手応えはいがかでしたか?

大塚様
もちろん大きな手応えを感じました。戦後からしばらくは物資が乏しかったので、相手にどんな物を贈っても大抵よろこばれたものでした。しかし1970年代にも入ると、世の中が豊かになり、受け取る人が本当によろこんでくれるものを贈りたいというニーズが生まれ始めていたからです。

馬場
ギフト専門店の魅力はどこにあるとお考えですか?

大塚様
ギフトと一口に言っても、冠婚葬祭に始まり、出産祝いや年祝、会社の周年記念、お中元やお歳暮、父の日、母の日のお祝いなど、さまざまな種類があり、贈る目的が同じでも地域によって風習が異なります。また、贈り物を吟味しようと思ったら、カタログでは物足りませんし、小売店を何カ所も回ったり、遠くのデパートに出かけたりするのも大変です。その点、郊外型のギフト専門店であれば実物に触れられますし、販売員から提案も受けられます。

馬場
ギフトの専門家を育てるのも大変だったのではないですか?

大塚様
そうですね。販売員には、取扱商品やギフトの常識について熟知しているのはもちろん、接客や包装にも気を配ることも必要です。ギフトショップは、週に何度も訪れるスーパーと違ってご来店頻度も低いですし、お客様ご自身が陳列棚から商品をカゴに入れて買う日用品とも違うので、お客様のご要望に合わせたご提案が必要です。お客様に人生の節目節目でご利用していただけるような信頼関係を築くために、優秀な販売員の育成にはとくに力を入れました。

——なぜ事業継承を考えたのか——

後継者問題の解決と第二創業の手段としてM&Aを選択

馬場
大塚様とお会いしたのは、顧問をお務めの公認会計士の先生を通じてご紹介していただいたのが最初でした。よろしければ改めて、事業継承を検討された経緯についてお聞かせ願えますか?

大塚様
はい。若いころから漠然と「60歳になったら引退」と思っていたものの、経営から身を引く準備が整わないまま65歳を迎えてしまいました。身内に後継者候補がおらず、時間だけが過ぎてしまっていたのです。とはいえ私もいつかは引退しなければなりません。体力も気力もあるうちに、今後の筋道を立てておかなければと思うようになったのが、事業継承を考え出したきっかけです。具体的に動き始めたのは、馬場さんとお会いする1年程前のことでした。

馬場
身近に後継者がいない場合、外部から次期経営者を招聘することもありますね。

大塚様
ええ。しかし周囲を見渡しても、あまりうまくいっているケースが見当たらなかったですし、適任者を探すのもなかなか大変です。これまでオーナー経営者が引退した途端、業績が傾いて、倒産させてしまったケースを何度も見てきましたから、少しでもうまく事業を引き継ぐ方法を採りたかったので、早々に検討から外しました。

馬場
それで事業継承型のM&Aに興味を持たれたわけですね。

大塚様
そうです。私の夢は、日本にギフト産業を確立することでしたから、後継者に経営を引き継ぐにしても、おおつかのギフト事業に可能性を感じてくれる会社に託したい。もし、私の希望を受け止めてくれる会社が見つかれば、事業継承型のM&Aもありなのではないかと思いました。その話を顧問の公認会計士の先生にしたところ「私もそう思う」とおっしゃっていただいたので、話を進めることにしたのです。

馬場
ご紹介していただいて初めてお会いした時、「お金がほしくて事業を譲るわけではない」、「おおつかのビジネスを発展させ、株式上場まで導けるような譲渡先を探したい」とおっしゃっていただいたのがとても印象的でした。

大塚様
馬場さんは、売り手、買い手の双方から手数料を取るM&A仲介業者と違い、売り手である私の側に立つアドバイザーに徹してくださると約束してくださいました。顔合わせの段階から腹を割って話すことができたのは、私の話を真摯に受け止めてくださっているのを感じたからです。いままでお会いしたどのアドバイザーよりも信頼できると思いましたから、馬場さんにお願いすることに決めました。

馬場
ありがとうございます。世の中には売り手、買い手の双方から手数料を取る仲介ビジネスも存在します。しかし当社は、原則として、売り手、買い手のどちらか一方のアドバイザーしか務めません。双方から報酬を得てしまうと、利益相反のリスクを冒すことになるからです。ですから今回の案件では、大塚様の利益や満足度を第一に、アドバイス、交渉に徹することをお約束しました。

大塚様
これから地方の過疎化は深刻になります。おおつかのギフトビジネスを新しい仕組みによって発展させ、会社の業績を伸ばしてくれる相手を見つけることは容易ではないことはわかっていました。かといって、仲介目的のM&A業者に丸投げしたところでうまくいくとも思えません。ですから、どうしても私の思いをくんでくれるアドバイザーが必要だったのです。

——譲受企業選定の決め手——

事業会社ではなく、投資ファンドに譲渡した理由

馬場
とはいえ、私も最初の顔合わせで大塚様の価値観やお考えを十分受け止めきれたわけではありません。郡山の本社やギフトプラザの店舗に何度も足を運ばせていただくなかで、おおつかの展開する店舗型ギフトビジネスは、日本の贈り物文化を支える唯一無二のモデルであり、可能性のあるビジネスだと確信することができました。

大塚様
本当に何度も来ていただきましたね。

馬場
プロジェクトが完了した後、数えてみましたらなんと東京と郡山を45往復していました(笑)。でも、その価値は十分にあったと思います。唯一無二のビジネスモデルを堅持し、事業を大きく発展させてくれる企業を探さなければと心から思えたのも、率直にご要望をお話しいただいたからです。

大塚様
ただ、譲受先の候補として投資ファンドを提案された時は、正直に申し上げてとても驚きました。てっきり事業会社を提案してくるとばかり思っていましたから。

馬場
そうでしたね。私が投資ファンドをご提案したのは、理解ある経営のプロに会社を託せば、大塚様の思いが叶えられる可能性が高くなると考えたからです。せっかく苦労してM&Aを成立させても、その後の経営がうまくいかないようでは、何のためのM&Aだったのかということになりかねません。その点、投資ファンドは、後任となる経営者のサーチ力に優れており、また組織を改革する実践ノウハウにも秀でています。これは大塚様の望まれる、第二創業には必要なことです。そして、唯一無二ともいえる、このギフトビジネスが色に染まることなく、独自性が活かされたまま承継されるべき、と考えたことも投資ファンドを提案した理由のひとつです。

大塚様
流通業や小売業のM&Aが必ずしもうまくいっていないのは知っていましたから、馬場さんの提案内容を詳しく聞いて、事業会社に経営を託すよりも、投資ファンドのほうがはるかに成功する可能性が高いと思うようになりました。

馬場
画期的な取り組みによって会社を成長させるには、新たな「血」に加え、優れた「知」も必要です。そういう意味でも投資ファンドは最適だと思い、複数の候補ファンドの中から、以前からおつきあいのある日本プライベートエクイティ(以下、JPE)を紹介させていただきました。

大塚様
JPE代表の法田真一社長とお会いして、この方は本物だと確信しました。JPEさんが掲げられている経営の10カ条を見せていただいた時、一瞬、わざわざうちのために作ってくださったのかと勘違いしたくらい、私の経営哲学と共通する部分が多かったからです。

馬場
「変えるべきものと変えるべきでないものを見極める」、「変えるべきでないものをより強くする」、「当たり前のことを当たり前に実行する」など、印象的な項目がたくさんありましたね。

大塚様
 ええ。JPEさんから意向表明書を受け取った時、自分の直感が間違いでないことがよくわかりました。一般的な意向表明書に比べて内容が濃く、経営方針や経営戦略が実現性に富んでいたからです。投資ファンドは投資家から莫大な資金を集め、買収先企業の経営をより良くするために命をかけていますから、魂が入っていて当然なのかもしれません。法田さんは、おおつかの第二の創業を支援したいともおっしゃってくださいましたし、経営のプロとしての覚悟も感じられたのでJPEさんに託すことに決めたのです。

——経営者へのアドバイス——

M&Aの成否を決めるのは、アドバイザー選びと経営者の決断力

馬場
株式の譲渡から約1年経ちました。率直なご感想をお聞かせください。

大塚様
馬場さんは、少しでも私の立場が有利になるよう、ギリギリまで交渉してくださいました。最後まで私のわがままに付き合っていただき、その役割をまっとうしてくださったので、とても感謝しています。

馬場
ありがとうございます。交渉を進めるために譲るべきところは譲り、クライアントのために死守すべきことを死守するのがアドバイザーの務めです。よろこんでいただけたのであればとてもうれしいです。

大塚様
こちらもM&Aに関して色々調べてはみましたが、本業でないぶん、知らないことや分からないこと、見落としていることがいくつもあるわけです。馬場さんのような専門家がそばについていなければ、満足のいく結果になっていたか分かりません。

馬場
アドバイザーによっては、クロージング(成約)を急ぐあまり契約内容を深く検討せず、ずいぶん後になってから、売り手の表明保証違反による損害賠償責任が問われることもあります。手数料の安さだけに惹かれてアドバイザーを選ぶと、想定外のリスクを背負い込むはめになるかもしれないので注意が必要です。

大塚様
そうですね。おかげさまで今回のM&Aは上々の滑り出しになりました。聞くところによると、後任の社長と従業員の関係は良好のようです。

馬場
それができたのも、大塚様が適切なタイミングでご判断を下していただいたからだと思います。経営判断が遅れると、それだけ妥協しなければならないことや、家族や後継者の負担も増えてしまいます。会社の業績が好調で、大塚様ご自身の健康状態もよろしい状態でM&Aをご決断していただいたことに加え、敢えて投資ファンドに譲渡する、という私の提案を柔軟に受け止め、判断していただけたことが、この結果につながったのだと思います。

大塚様
個人的にはもうちょっと早く決断しても良かったのでは、と思う部分がないわけではありませんが、経営者の引き際としては悪くないと思っています。馬場さんのおかげで、理想的な形で経営の一線から退くことができました。これからは第三者として、オーナー経営から組織経営に変わっていく会社の行く末を見守りながら、これからの人生を謳歌するつもりです。

馬場
今回は貴重なお時間をいただきありがとうございました。これからも末永いおつきあいをお願いいたします。

大塚様
こちらこそありがとうございました。