<譲渡企業>
株式会社おお蔵
本社:福岡県福岡市
事業内容:中古の高級時計やブランドバッグ、貴金属の卸・販売。オークション事業
売上高:約128億円(2019年2月期※M&A時点)
経営課題:さらなる事業拡大
<譲受企業>
株式会社ゲオホールディングス
本社:愛知県名古屋市
事業内容:レンタルビデオショップやリユースショップなどを全国展開するゲオグループの持ち株会社。リユース市場では国内シェア1位。2000年東証一部(現 東証プライム)に上場
売上高:約3347億円(連結、2022年3月期)
<プロフィール> 株式会社おお蔵 創業者・代表取締役 古賀清彦様
1971年福岡市生まれ。大学卒業後、アパレル会社を経て、中古ブランド時計を扱う会社に入社。7年後に独立して古賀商店を開業。翌2004年、株式会社おお蔵に社名変更。2008年に香港店を開設。2017年に米国ロサンゼルスに法人設立。2019年4月、株式会社ゲオホールディングスに株式を譲渡。現在、株式会社おお蔵ホールディングス社長、株式会社ゲオホールディングス執行役員。
——創業の経緯——
中古高級時計の卸売の現状に商機を見出す
馬場おお蔵は高級時計に強みがありますが、どのようにして目を付けたのですか。
古賀様
中古の高級時計では有名な会社に勤めていました。
当時、中古の高級時計のオークションは都内でも月に1回ぐらいしか開かれていなくて、それ以外だと、小売店は自分の店で仕入れるしかありません。中古の宝石の場合、卸売商が小売店さんを回り商品が不足していると補充していました。
中古時計の小売店の経営者は一匹狼が多かったので、中古宝石のような卸売商がいたらニーズがあると思いました。
そこで、開業資金を11年間で1,300万円貯めて、31歳の時に独立しました。
どのように営業をしていったのですか。
古賀様
オークションでは朝から夕方まで3日間かけて商材の下見をして、4日目に本番を迎えます。
それでも買えるもの、買えないものが出てくるわけです。欲しいと思っても、自分より上の値段を付ける人がいたら、買えませんからね。
僕は全国のオークションを隈なく回りました。
そこに参加していたバイヤーの方々を訪ねて、競り落とした商材を買い取って他のバイヤーに売ったり、僕が競り落とした商材を売ったりして取引先を増やしていきました。
バイヤーからすれば、オークションに行って3~4日時間を費やしても買えるか買えないかわからないよりも、僕と対面で取り引きすれば30分か1時間で商売が終わるのです。
お互いメリットが大きいですね。
古賀様
オークションで買うと、コピー品や故障品をつかむ可能性がある上、買った人の責任になります。
しかし、僕から買えば僕に返品できるので、こんなありがたい商売はないのではないでしょうか(笑)。
故障の相談も受けていました。
オークションに来ているバイヤーさんに1人接触していくのですが、断られたことがないですね。
バイヤーさん同士はライバルなのですが、僕はその繋ぎ役になって、ネットワークを築いていったのが事業を拡大する上で大きかったと思います。
事業規模は拡大し、経営は順調だったのですね。
古賀様
ただ、将来に対する不安が2つありました。
まず、この商売は売上げを伸ばせば伸ばすほど利益率が薄くなります。
そうなると、自己資金で賄えなくなり、売上げが上がれば上がるほど、借入金も増えていくのです。
M&Aの直前は売上高が130億円弱だったのですが、今後、200億円、300億円になった時のことを考えると不安になりました。
もう1つは、この商売は職人集団が担い、BtoBをメインとしているので、資金さえあれば独立できるのです。
主軸となるチームプレーヤーが独立した場合、僕が現場に戻るとか、僕の代わりに娘たちが職人集団を切り盛りすることは想像できず、不安がありました。
その不安はM&Aを考える遠因になりましたか。
古賀様
そんなことはありませんでした。
商売人なら誰もが悩む道筋だと思っていましたから。
きっかけは次のようなことです。
子会社に日本オークション協会という株式会社があります。
当時は5大オークションの中の1社が同社でした。
そのうちの1つに倒産危機が持ち上がりました。
出品者はオークション会社に品物を預ける期間が1~3週間あります。
その間、オークション会社が倒産すると、品物は返却されません。
出品者にしたらリスクがあります。
僕が出品者側だったら、どこに出品するかと考えると、当時だったらコメ兵(愛知県名古屋市)さんでした。
さすがに上場企業がいきなり倒産などしないだろうと考えたからです。
日本オークション協会も人間関係で成り立っているようなビジネス形態だったので、不安な思いはありました。
有力企業に株式を10~20%持ってもらい、箔をつけた状態で「このオークション会社は安心した運営ができています」と対外的に見せたかったというのが当初の思いです。
そこで、ビジネスパートナーからご紹介いただいたのが馬場さんでした。
──M&A相手選定の決め手──
ゲオグループならではの資金・人材・出店ノウハウ
馬場
古賀社長と面談した時、おお蔵自体のM&Aの話は出ませんでした。
日本オークション協会の株式の一部を、ゲオに持っていただけませんか、というのがスタートでした。
結果は駄目でしたね。
「BtoBは儲かるかもしれないけれど、興味がありません」と断られました。(笑)
そんな時、取引先が新宿歌舞伎町と上野御徒町の2店舗を閉じることになり、経営を継承しないかという話が来ました。
実現すれば初出店になるので、石橋を叩いて渡ろうと、約1カ月間、一緒に実験をさせてほしいと伝えました。
店の看板はそのまま、家賃は当社持ち、商品は当社が大量に投入しました。
その結果、結構売れたので、経営を継承してそのままの流れで小売業をスタートしました。
ゲオは、リユース業態は日本一ですが、ラグジュアリー分野は得意ではありませんでした。
もともと興味があったので、おお蔵の事業拡大を支えることで、ラグジュアリー強化の足掛かりを得られればと、ゲオの遠藤社長は考えたようです。
日本オークション協会の話が没になって半年後、私はおお蔵の福岡市の本社を訪ねて、ゲオグループとの関わりを巡り古賀社長といろいろな話をしました。
2カ月後には、ゲオの本社のある名古屋市に一緒に行き、BtoC事業の強化も含めた古賀社長の思いを遠藤社長の前でプレゼンしていただきました。
遠藤社長にも今度は自分が福岡に行きたいと言っていただき、それがM&Aに至る話のスタートでした。
当初はおお蔵自体の売却という考えはなかったですね。
ゲオに株式を少し持ってもらおうという話からスタートして、その後、持ち株比率は何%にするかなど、いろいろな条件を詰めていき、最後は遠藤社長を信用して、株式の100%の売却に合意しました。
当時、株主で且つ取締役だった妻も馬場さんを信用していたので、安心して検討し、交渉させていただいた経緯があります。
単純に企業価値を上げたいということならば、他にもっと高く買ってくれる企業があったかもしれませんが、従業員の雇用環境を良くしてくれたり、リユース事業を一番理解してくれたりするところはどこだろうか、といった時、やはりゲオだろうと考えました。
なおかつ遠藤社長の人柄もありました。
半年間、いろいろな話をする中で、約束したことは絶対裏切らないだろうと感じ、お金のことなどいろいろな駆け引きはやめて、「チームゲオ」として一緒に会社を大きくしていきましょうという気持ちに持っていけたのです。
交渉がスタートしてM&Aが成立するまで約8ヵ月。
ノーマルなスピード感でしたが、それには、古賀社長のM&Aに対する目的がはっきりしていたことがあると思います。
将来出てくる事業継承問題の一方で、更に事業をどう成長させるかという課題がありました。
もともとBtoB事業がメインでしたが、店舗出店やECなどBtoC事業を強化したいと考えていました。
それには一定の資金や出店情報や出店スキルが必要なので、単独で行うには限界があり、スピーディーに実現するにはM&Aがいいと古賀社長も考えたと思います。
資金があり出店ノウハウが豊富な上場企業だと、ゲオしかないと思いました。
以前から遠藤社長らと親しくさせていただいていたので、ゲオの戦略をよく知っていたからです。
ところで、当時、役員や従業員の方々の反応はいかがでしたか。
役員には事前に話していたのですが、抵抗は強かったですね、僕もそこが1番最後まで苦労しました。
社風が変わるとか、職人の仕事を理解してもらえないのではとか、今日話したことが明日変わるのではといった不安や懸念ですね。
理解してもらうには、信用してもらうしかありませんでした。
それは僕がおお蔵の経営から抜けないということです。
今後も一緒にやっていくことに対して信用してもらえたことが最後は大きかったと思います。
──М&Aから3年後の成果は──
従業員の福利厚生の改善、2店舗から20店舗に拡大
馬場
ゲオグループに参加して3年経ちました。
イメージの違いや変化はありますか。
イメージしていた通りで、ノーストレスです。
先ほども言いましたが、売上げを伸ばせば伸ばすほど借入金も増えるので、常に悲壮感があり、孤独感を感じていました。
今はチームゲオの一員なので、悲壮感や孤独感は払拭されました。
従業員の環境も改善されました。
残業手当の支払いや休暇取得、福利厚生が整備されています。
経営面の大きな変化は、売上げが急激に伸ばせたことです。
中小企業では基本的に赤字は、出せません。
借入れができなくなったり、借入金を引き揚げさせられたりします。
常に儲け続けないといけないので、借入れを増やして売上げも増やすという積み上げ方式だったのですが、ゲオグループ参加後は5年で売上高500億円という目標や計画を決めてから、それに合わせた資金を借入れて運用しています。
いわばパラシュート方式のように変わりました。
極端な話、2年間赤字でも必要ならば店舗を拡大し、500億円に最短で行ける手段を選ぶことができます。
店舗も当初2店舗でしたが、現在は20店舗を展開しています。
古賀社長はゲオホールディングスの執行役員でもあります。
どのような役割をしているのですか。
「セカンドストリート」を含めて、ラグジュアリー分野の監修をしています。
また、経営会議に参加して、ゲオグループのあるべき姿について意見を述べています。
ストレスは感じておらず、楽しんでいますよ。
M&Aに当初抵抗していた役員の方々はその後、どうしていますか。
古賀様
うち、キーマンの取締役が2人いたのですが、1人は魂が抜けたので辞めますと言って、2年後に独立しました。
もう1人は現在も取締役として残って、頑張ってくれています。
創業の頃からのメンバーなので、「おお蔵魂」みたいなものだけは消したくないという思いがあるようです。
M&A後のおお蔵の成長の要因は何なのでしょうか。
古賀様
まず、ゲオグループの店舗開発力ですね。
関連子会社に店舗開発を専門に担っている部署があります。
その部署にオーダーをかけて、計画に基づいて不動産を探していただき、契約に結び付けるまでが、直営展開を進めてきたノウハウがあるせいか、スピーディーです。
そのおかげで15年ぐらいかけて2店舗出店したのが、2~3年で20店舗まで拡大できたというのは想像がつかないことでした。
それと人材と豊富な資金力です。
人材面では、経理と人事総務の各々専門常駐スタッフを派遣いただく事で管理力が強化され、この事業拡大を支えて頂いています。
2020年に話題になった、デジタル家電を扱うじゃんぱら(東京都)さんの中古ブランド事業「ロコシーラ」の退去物件への出店も、店舗拡大を加速しましたか。
古賀様
そうですね。
じゃんぱらさんは当社の取引先でした。
当社に店舗も在庫も人も引き継がせていただけないかとお話に行きました。
当社のような会社が3~4社あったようですが、僕らが最短で会いに行き、最短で在庫の棚卸をして全部整えて条件を提示したのです。
そこに誠意を感じていただき、継承を承知していただきました。
ロコシーラが展開していた5店舗のうち、新宿を除く銀座などの4店舗の物件を取得し、屋号は「OKURA」に変えました。
BtoC事業では駆け出しの当社にとって、接客レベルの高いスタッフを引き継いだこともプラスになっています。
──ゲオとともにリユース業界で目指すもの──
リユースの深耕・深堀りで「リユースの総合商社」へ
馬場
ゲオは今年4月に、中古農機具の買い取り再販事業を手掛け、古物商や遺品整理の資格も持つ株式会社rock(滋賀県近江八幡市)を買収しました。
きっかけ、経緯を教えてください。
はい。
おお蔵は中古ブランド事業の他に、オークション事業も行っています。
そこには楽器や骨董、農機具、遺品整理などのリユースに関わる様々なアイテムを扱っています。
「リユースの総合商社」を目指していたのですが、その中心になるのが高級時計や宝石、高級バッグだと考え、先行して扱っていました。
それらがある程度成熟したら、商材の幅を広げていきたいという思いがあります。
また、ゲオも元々 リユースの深耕・深堀りを考えています。
馬場さんにも農機具以外にも、骨董品や中古楽器やカメラ等を扱っている会社があったら教えてください、などといろいろなリクエストを言っていましたね。
そういう流れの中で、rock社とご縁を頂けたという感じです。
中古楽器やカメラ、骨董を扱うには専門的な知識が必要ですが、そういう人材はなかなか採用できません。
それだけに強いニーズがあります。
rock社の松村社長は39歳の若い社長ですが、おお蔵のM&A事例の話をすると、純粋に興味を持っていただきました。
2021年暮れに古賀社長らと会食していただいたり、お話したりする中で、ゲオグループのビジョンに共感いただき、M&Aという形で今年4月にゲオグループに参加していただきました。
ゲオグループの今後の展望についてはどうお考えですか。
古賀様
私はリユースの深耕に重点を置いて活動していきたいと考えていますが、遠藤社長も同じではないかと思います。
リユースの関連事業ならば、手掛けることもあるかもしれませんが、私自身は「リユースは裏切らない」と思っているので、リユースを突き詰めて広げていくことで、ゲオの事業全体の底上げができればと考えています。
また、それによって循環型流通業の確立を目指していることもあります。
ゲオは以前までは、M&Aと言っても、経営者の引退などを機に同業のビデオレンタル店を買収するケースが多かったですね。
現在は、おお蔵のケースのように、ゲオにないリユースのノウハウや機能を取り込んでいくというように変わってきています。
また、古賀社長はもちろん、rockの松村社長のように若くて優秀な経営者に共鳴いただいて、一緒に歩んでいただける仲間を増やしているのが最近の傾向ではないかと思っています。
上場企業なので決算含めた管理体制を整えるなど、グループとして最低限やるべきことはありますが、必要な資金や人材、ノウハウを提供した上で、本業に関しては各経営者に任せ、各社のブランドや文化、独自性を尊重しているようですね。
遠藤社長とグループ会社の社長との信頼関係が根底にあると思います。
──経営者へのアドバイス──
M&Aは早めの検討と良きアドバイザー選び
馬場悩める経営者に向けてアドバイスをいただけますか。
古賀様
経営者はいつまでも若くはありません。
いつか老いて、辞める時が来ます。
それに対して、自分なりに第三者的に俯瞰して、逆算して早めに備えていかないといけないと思います。
仮に60歳を1つの節目とした場合、50歳になったらあと10年しか時間がありません。
それまでに何ができるのか、どうリスクヘッジしたらいいのかという課題があったのです。
M&Aに踏み切るのか、上場を目指すのか、後継者を探すのか。
僕は50歳手前でM&Aを決断しました。
後継者に関してはどのような課題があったのですか。
古賀様
自分の子供以外に継がせようと考えたこともありました。
役員です。
しかし、私が銀行で借入れている以上、保証人は変えられないのです。
自宅も抵当に入った状態で借入れており、僕は永遠に保証人なのですね。
もし後継者が会社を潰したら、僕が積み上げたものがゼロになるどころではなくなります。
なので、その選択肢がなくなりました。
M&Aに関して言えば、自分の描くビジョンの実現が普通は5年、10年、何十年という長い継承を経て達成できるものですが、M&Aによりショートカットでたどり着けることが可能になるということが大きなメリットだと思います。
経営者だけでなく、会社も「生き物」であり、昨今のコロナ禍含めて、事業環境の変化が読めない時代ですので、早め早めの検討が必要だと思います。
M&Aをやる、やらないにかかわらず、1つの可能性として検討することが大事ですね。
また、M&Aを実施した場合の自社の価値を知っておくことも含めてです。
やるならば、そのタイミングはアドバイザーとの相談が必要ですが、 最後は経営者の決断力が重要です。
業界環境が変化したり、病気の経営者の中には病状が悪化する方もいらっしゃったりするので。
M&Aのアドバイザーについて言えば、この5年ぐらいですごく増えていまが、大半が案件サイズに関係なく、売主、買主双方から報酬をもらう「仲介型」の会社であり、特に条件交渉において利益相反が生じてしまいます。
弊社は、売主もしくは買主いずれかのアドバイザーに徹しており、本件でも古賀社長(売主)側のアドバイザーとして成就まで全うさせて頂きました。
クライアントである経営者側に立ち、誠意を持ち、親身に尽くしてくれるアドバイザーを選ぶことをお勧めいたします。
馬場さんのような方を知人に紹介してもらうといいのですが、そうでない方はM&Aを経験した経営者に相談しながら、慎重にM&Aアドバイザーを選定されるべきと思います。
馬場お忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。